この鉱物は、岡山大学の草地教授研究グループ(筆頭著者・大西政之)に拠って見出された日本産新鉱物で、2005年IMA承認を受け、本年(2006,)カナダの鉱物雑誌「The Canadian Mineralogist.」へ「Numanoite, Ca4CuB4O6(OH)6(CO3)2, a new mineral species, the Cu-dominant analogue of borcarite from the Fuka mine, Okayama Prefecture, Japan Ohnishi, M., Kusachi, I., Kobayashi, S., Yamakawa, J., Tanabe, M., Kishi, S. and Yasuda, T.」と題し記載されました。鉱物名は、故岡山大学教授、(岡山鉱物化石研究会初代会長)沼野忠之博士に因み付けられました。本鉱は硼灰石(ボルカライト)のMgをCuに置換した化学組成を持ち、外観は硼灰石と非常に良く似ていますが、殆どの本鉱が硼灰石結晶の中心部分に鮮やかなアップルグリーンの色彩を成し累帯状で伴っています。産地では、ほんの20〜30cm程度の範囲にのみ少量産した非常に数の少ない鉱物で、布賀産の稀産鉱物類(草地鉱や方蒼鉛鉱)などよりはるかに少ないです。
カルサイト母岩表面のバルトフォンティン石針状結晶中に埋まる形で無数の沼野石が伴う標本。
硼灰石結晶の中心に鮮やかなアップルグリーンを成して伴う。
結晶中のアップルグリーンを成した部分が本鉱で、硼灰石と同じ結晶型をしています。
沼 野 石 Numanoite
参考文献:日本鉱物学会2005年度年会講演要旨(K8-02)より
岡山県高梁市布賀鉱山産borcariteのCu置換体

    大西政之・草地 功(岡山大・院教育),小林祥一(岡山理大・理),
   山川純次(岡山大・院自然),田邊満雄・岸 成具・安田隆志


Cu-analogue of borcarite from the Fuka mine,Takahashi,
Okayama Prefecture,Japan


Masayuki Ohnishi,Isao Kusachi(OkayamaUniv.),Shoichi Kobayashi(OkayamaUniv.Sci.),
 Junji Yamakawa(OkayamaUniv.),Mitsuo Tanabe,Shigetomo Kishi and Takashi Yasuda


 岡山県高梁市備中町布賀のgehlenite−Spuriteスカルンに近接する結晶質石灰岩を採掘した布賀鉱山から産出する鉱物を調査している過程で、borcarite Ca4MgB4O6(OH)6(CO32のMgをCuが置換した組成をもつ鉱物を見出したので、その産状および鉱物学的性質について報告する。このような組成の鉱物はこれまでに知られていない。
 BorcariteのCu置換体は結晶質石灰岩を切るpentahydroborite,nifontoviteのレンズ中に3mm以下の粒状結晶をなして産出した。この結晶の外側は無色でborcarite、内側はエメラルドグリーンを呈しborcariteのCu置換体である。本鉱物は無〜淡緑色のborcarite中に細脈をなしていることもある。共存鉱物はborcarite,nifontovite,calcite,bultfonteiniteである。
 肉眼的にはエメラルドグリーン〜無色透明でガラス光沢を示す。鏡下では無色透明で、多色性はみられない。二方向に完全な努開が認められる。重掛こよって測定した密度は2.96(2)gcm-3,Z=2として計算した密度は2.96gcm-3である。ビッカース硬度は376(290−464)kgmm-2(25g荷重)で、モース硬度に換算すると4.5に相当する。光学的には二軸性負で、屈折率はα=1.618(2),β=1.658(2),γ=1.672(2),2Vx(calc)=60°である。
 WDSおよびTGAによって得られた分析値(組成範囲)は、CaO 38.26(38.06-38.72),CuO 11.51(11.22-11.81),MgO 0.59(0.52-0.67),ZnO 0.09(0.08-0.10),B2O3 24.27(23.25-25.04),CO2 15.33,H2O 9.28,total 99.33 wt%で、0=18とした実験式はCa
3.965(Cu0.841Mg0.085Zn0.0060.932B4.040O5.941(OH)5.987(CO32.024である。なお、試料によってはCu,Mgが大きな組成変化を示すものがあり、これらの間には明瞭な負の相関がみられた。本鉱物は希塩酸に穏やかに発泡しながら溶ける。
 BSE像で組成を確認した研磨片から単結晶をとり出して、四軸自動回折計で測定した結果は、単斜晶系,ラウエ群C2/m,格子定数α=17.799(3),b=8.389(2),c=4.451(2)Å,β=102.49(3)°である。粉末]線回折計で測定した主な回折値[d(l) (hkl)]は、7.57(100)(110),2.671(84)(
-421),2.727(68)(221),1.887(52)(440),2.272(48)(-331),2.899(44)(600),1.698(34)(640),2.201(28)(601),1.811(26)(222),2.096(22)(040),2.365(20)(-131),2.136(20)(-801),1.903(20)(-821),1.606(20)(10.2.0)で、これらの値から最小2乗法によって精密化した格子定数は、a=17.794(2),b=8.381(1),c=4.4494(7)Å,β=102.42(2)°である。KBr錠剤法による赤外吸収スペクトルでは3540,3260cm-1にO-Hの伸縮振動、1410,870,290cm-1に炭酸基、1450,390cm-1にホウ酸基による吸収がそれぞれ認められた。TG-TDAでは484℃にH2Oの放出による重量減少を伴う吸熱ピーク、682℃にCO2の放出による重量減少を伴う吸熱ピークがそれぞれ認められた。これらの結晶学的データ、赤外吸収スペクトルおよびTG-DTAはborcariteと類似している。
 BorcariteのCu置換体を空気中で900℃まで加熱したときのXRDパターンは、Ca2B2O5およびCuOに一致した。この加熱生成物は本鉱物とCu/B比が等しいhenmilite Ca2Cu(OH)4[B(OH)4]2と同じである。なお、borcariteを同
様に加熱すると、,Ca2B2O5およびMgOが生成した。