ホウ酸塩鉱物の母岩表面に生成したもの。無色透明な為、分かり難いが、白く光が反射して見える一帯が本鉱。 |
上の標本の表面を20倍顕微鏡撮影したもの。最上下部の突起様の透明なカルサイトに似た結晶が本鉱。 |
インヨー石 Inyoite
参考文献:日本鉱物学会2003年度年会講演要旨より
岡山県備中町布賀産inyoiteについて
草地 功(岡大・教育)・小林祥−(倉敷芸術科大・地)・田邊満雄・岸成具・山川純次(岡大・理)
InyoiteはCa2B606(OH)10・8H2O組成のカルシウムホウ酸塩鉱物である。この鉱物はSchaller(1916)によってInyo
County,Califomiaから最初に記載されて以来、大陸内部の塩湖などの蒸発乾固物のホウ素鉱床中で数多く報告されている(例えば、Laguna
de Salinas,Peru(Muessig,1958),Loma Blanca,Argentina(Alonso et al.,1988),Westerm
Aatolia,Turkey(Palmer and Helvac,1997)).今回、岡山県布賀鉱山のスカルン鉱物を調べている過程において,nifontovite,pentahydroboriteなどのホウ酸塩鉱物を多産する新たな産地でinyoiteを見いだした。布賀に産するような高温型スカルンに近接した場所でのinyoiteの産出例は見当たらないので、その産状および鉱物学的性質について報告する。なお、日本ではinyoiteの産出は初めての例である。
布賀鉱山での新たな産地のホウ酸塩鉱物集合体は、坑内の天盤近くの結晶質石灰岩中に最大径2mのパイプ状あるいはアメーバ状として産しており、坑内の側壁には長さ約7m,幅3mにわたって一部が露出している。これらのホウ酸塩鉱物集合体の一部は、後のCu,Asなどを含む熱水脈によって貫かれている。この熱水脈には自形結晶を示すhenmiliteが多量に形成されており,少量ながらAsを含むホウ酸塩鉱物も生成されている。本産地に産する主な鉱物は、上記鉱物以外にborcarite,frolovite,Sibirskite,parasibirskite,uralborite,brucite,ettrngite group minerals,cuspidine,cahnite,johnbaumit,tenorit,bornite,chalcopyrite,pyrite,andradite,unidentified mineralsなどである。
Inyoiteはカルシウムホウ酸塩鉱物集合体の割れ目の表面に厚さ3mm以下の層状をなして、径1mm大の板状結晶集合体として産する。肉眼的には無色透明でガラス光沢を示す。光学的には二軸性負で、α=1.492,β=1.506,γ=1.517.ピッカース硬度は91kg/mm2(10g荷重)で、モース硬度では2.5に相当する。重液法による密度は1.875 kg/mm3である。希酸に可溶、粉末]線回折値から求めた格子定数は、単斜晶系でa=10.616(2),b=12.068(1),c=8.404(1)Å,β=114.01(1)゜、化学分析の結果は、CaO 20.12,B2O3 37.40,H2O 42.51,Total 100.03%. O=24として計算した実験式はCa1.99B5.96O5.92(OH)10・8.08H2Oである。熱的には、122度に強い吸熱ピークがあり、757度に発熱ピークを示す。900度に加熱すると、inyoiteは脱水と共に、B2O3の3分の1が揮散する。赤外吸収スペクトルでは、3540から3120cm−1に結晶水に帰属する吸収バンドが見られ、1480から280cm−1にはホウ酸塩鉱物に特徴的な多くの吸収バンドが見られる。Christ(1953)は、Schallerの私信として、inyoiteは水中に入れたulexiteを室温で2週間放置しておくとulexite上に晶出することを報告しており、また、Smith
and Medrano(1996)は、Hanshaw(1963)による相関係図中で、inyoiteはCa,H2Oのactivityが高く、20数度以下の温度で安定であることを引用している。彼らの結果および坑内での産状から、inyoiteは常温で割れ目に浸透してきた地下水が母体であるホウ酸塩鉱物と反応して二次的に生成されたものと考えられる。